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東京高等裁判所 昭和33年(ラ)384号 決定

抗告人 中山宇平次

相手方 岸本豊 外一名

主文

原決定中抗告人と相手方岸本豊に関する部分を取り消す。

東京地方裁判所所属執行吏は東京地方裁判所昭和三十二年(ケ)第一〇四号不動産競売事件について、別紙目録記載の不動産(右決定添付)に対する相手方岸本豊の占有を解いて競落人中山宇平次にこれを現実に引渡をせよ。

相手方岸本郁子に関する部分の本件抗告を棄却する。

本件不動産引渡命令の申立及び抗告費用はこれを十分し、その九を相手方岸本豊、その一を抗告人の負担とする。

理由

抗告人は、「原決定を取り消す。相手方等は抗告人に対し別紙目録記載の不動産の引渡をせよ。」との趣旨の裁判を求め、その理由として、別紙抗告理由書記載のとおり主張した。

本件記録によると、次の事実を認めることができる。債権者日興信用金庫は債務者舘野林次に対して有する金三十九万九千八百八円の債権の弁済を受けるため、別紙目録記載の家屋に対する抵当権の実行として東京地方裁判所に競売の申立をなし、同裁判所は同庁昭和三十二年(ケ)第一〇四号建物競売事件として昭和三十二年一月三十一日競売手続開始決定をなし、同年二月七日競売申立の登記がなされ、また同月二十七日右決定は債務者(抵当不動産の所有者)舘野林次に送達された。抗告人は右競売手続において右不動産を競落し、昭和三十三年三月二十五日競落許可決定を受け、右決定確定後同年四月十二日競落代金の全額を支払つた。ところが右競売手続進行中債務者舘野林次は本件家屋から任意に退去し、相手方岸本豊は右不動産について差押の効力の生じた後である昭和三十二年六月頃本件家屋の敷地所有者である勝村進の承諾を得て本件家屋に寝泊りするようになり、昭和三十三年三月頃相手方岸本郁子と婚姻して爾来右両名において家屋に居住しこれを使用しているものである。

抵当権の実行による建物の競売では競落人に対抗できる賃借人を除いて、所有者等は競落代金支払後はその建物から退去しなければならず、その場合、競落人は右建物の所有者に対して訴によつて明渡を求める必要はなく、競売法第三二条、民事訴訟法第六八七条によつて競売裁判所に債務者に対する引渡命令を求めて引渡を求め得るのである。これは、一方においては、競落人に対抗し得る賃貸借を調査して公告させて、他方では競落人に建物を直ちに引き渡すことによつて、適正な価額によつて競売するために、右のような制度が設けられたのである。従つて、建物について競売開始決定がなされ、その旨の登記手続を経て差押の効力が生じた後、競売手続の進行中に右建物の占有を初めた第三者は競落人に対抗し得る権原に基いて占有を初めた者でないから、所有者の占有を承継したものとして所有者と同様に、引渡命令を求め得るものと解するを相当とする。この第三者は、引渡命令が上記のような趣旨で認められたものであるから、その建物を占有するに際して債務者の意思に基いている場合と、債務者の意思に基いていない場合とで別に解すべき理由はない。本件では、上記認定のように、相手方岸本豊は本件競売不動産の所有権を取得した抗告人に対し対抗できる何等正当の権原がないのに、差押の効力発効後本件家屋を占有するに至つたものであるから抗告人は右相手方に対し該不動産の引渡命令を求めることができることは明らかである。しかしながら、前記認定の事実に照して考えてみると、相手方岸本郁子は相手方岸本豊の妻として単に従属的関係において本件家屋を占有しているにすぎないのであつて、独立の権原又は独立の関係においてこれを占有しているものと認められるような特段の事情を窺うに足る資料は存しないから、抗告人の右相手方に対する本件不動産の引渡命令は失当として排斥を免れない。してみると、相手方両名に対する抗告人の本件不動産引渡命令の申請を却下した原決定は、相手方豊に関する部分は失当であるから、これを取消して右申請を認容すべく、相手方郁子に関する部分の原決定は相当で、本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし、本件申立及び抗告費用の負担について民事訴訟法第九五条、第八九条、第九三条第一項に則り主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 村松俊夫 裁判官 伊藤顕信 裁判官 小河八十次)

抗告理由

本件は昭和三十二年(ケ)第一〇四号不動産競売事件として取扱われた物件を抗告人が昭和三十三年四月二十五日民訴第六百七十九条に基いて許可決定を受け更に民訴第六百八十六条並に競売法第三十三条により抗告人が取得したる権利の移転登記も甲第一号証に示す如く完結しているにも拘らず而も裁判所で競売した物件に対し不動産引渡命令申請を却下するとは言語道断と言わざるを得ない。何となれば裁判所としては競売した責任上進んで不動産引渡命令を発行するのが至当ではないかと存じますので左記証拠書類を添附して即時抗告理由と致しますと共に本件不動産引渡命令許可を得たいため別紙家屋台帳登記簿謄本並に債権者及び債務者の証明を相添え此の段御願い致します。

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